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Glycoscience
2016-06-02

6年生文献紹介 (3)

6月2日のセミナーの担当は杉野くん1人でした。果敢にも Nature 論文に挑みました。お疲れさま。
1)杉野くん
High-fat diet enhances stemness and tumorigenicity of intestinal progenitors (2016) Nature 531, 53-58

昨今、日本人の食生活の欧米化にともない、大腸癌の発症リスクが高まってきています。大腸癌は多段階で進行すると考えられており、大腸癌関連遺伝子 (APC, K-ras, p53, DCC 遺伝子)が段階的に変異すると大腸癌が発生しステージが進行します。APC 遺伝子に変異が入ると家族性大腸腺腫症(ポリープ)が発症しますが、これだけで大腸癌になるわけではありません。APC 遺伝子の変異にプラスして”他の要因”を併せもつことで癌が発症します。”他の要因”とはいろいろなものが報告されていますが、今回の論文では、高脂肪食に注目しています。悪玉脂肪酸の一つ、パルミチン酸が腸管上皮幹細胞の stemness (幹細胞性)を促進し、自己複製能を高めます。本論文では、APC 遺伝子に変異をもっている腸管上皮幹細胞が、パルミチン酸による刺激を受けることが、ポリープを大腸癌へ進行させる必要条件の一つである可能性を提唱しています。APC 遺伝子が変異した腸管上皮幹細胞がパルミチン酸によって物凄いスピードで自己複製するわけですから、本来、体に備わっている癌を防御する機構(DNA 修復やアポトーシスなど)では到底間に合わず、癌が発症してしまうのでしょう。パルミチン酸によって stemness が高まる機構として、PPAR-δ の活性化が β-catenin 経路を active にすることによると述べています。β-catenin 経路の活性が stemness の維持に関与することはよく知られていることなので納得できますが、パルミチン酸がどのような機構で PPAR-δ の活性化を起こしているのか?PPAR-δ が β-catenin 経路をどのように制御しているのか?については、まだわかっていないようです。
以下のサイトでは、腸管上皮幹細胞の変異により大腸癌が発生する様子が動画で紹介されています。この動画のような”いやらしい”細胞増殖が自分の腸の中で起きていることを想像すると、飽和脂肪酸をたっぷり含んだマックなどの摂取は控えなければと強く思うようになります。
https://www.youtube.com/watch?v=qq5k1sWqLO0

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