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Glycoscience
2016-08-02

2016 アクティブラボ開講

アクティブラボは低学年(1〜3年生)に対して開講されます。短期間ではありますが、研究室に所属し、研究室の実験技術や研究活動を体験してもらうことで、低学年から研究や実験に興味をもってもらい、研究マインドを高めてもらおうという意図で昨年度から始まったプログラムです。始まったばかりなのですが、かなり人気が高く、定員49名に対して、89名が採用されています。この数字は、学生が研究や実験に対して強い興味をもっていることを表しているとともに、学生の教育に対し熱心に取り組もうとしている研究室(大学)の姿勢を表していると思います。

本年度、生化学研究室では、1年生2名、2年生5名を受け入れます。3つのグループ(1グループ 2〜3人)に分かれ、8月から9月の間に、それぞれのグループが5日間ずつゼミを体験します。

今年のメニューは下記の通りです。
どのグループにも、下記の実験 1〜3 をやってもらいます。

実験1)ウェスタンブロッティング法によって目的タンパク質を検出する

ウェスタンブロッティング法は抗体の特異性を利用して、目的のタンパク質を検出する方法です。3年生後期の分子生物学 II で習いますので、講義に先行して体験することになります。

ウェスタンブロッティング法では、まず、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法によって、タンパク質を分子サイズで分離します。この実験法は1年生後期の生化学II で習います。2年生の学生さんは、講義の内容を思い出しながら実験すると脳裏に焼き付くと思います。

ウェスタンブロッティング法で調べてもらう分子は、生化学研究室の研究対象である「プロテオグリカン」です。「プロテオグリカン」は、タンパク質に硫酸化糖鎖が結合した糖タンパク質の総称です。今回の実験では、プロテオグリカンの中でも、「デコリン」と名付けられた分子をウェスタンブロッティング法を用いて検出してもらいます。

さらに、硫酸化糖鎖を分解してタンパク質だけにしたデコリンと糖鎖が結合したデコリンの分子量を比べてもらうことで、デコリンにとても長い硫酸化糖鎖(コンドロイチン硫酸)が結合していることを確認してもらいます。デコリンに結合している糖鎖がコンドロイチン硫酸であることがなぜわかるかというと、コンドロイチン硫酸だけを特異的に分解する酵素を用いてデコリンを処理するからです。また、遺伝子工学的にコンドロイチン硫酸鎖が結合するアミノ酸(セリン)を1ヶ所変異させたデコリンとコンドロイチン硫酸鎖を分解してタンパク質だけにしたデコリンの分子量を比較することで、デコリンに結合しているコンドロイチン硫酸鎖が1本であることも確認してもらいます。

実験2)目的のタンパク質の発現・局在を調べる方法として広く用いられている免疫染色法について学ぶ

この実験で用いる細胞は、マウスの初期胚(受精卵)です。

私たちも、もとを辿れば1つの細胞(受精卵)に由来し、たった一つの細胞が分裂を繰り返すことで、人体を構成する 37兆2000億個の細胞を生み出しています。

私たちの研究結果から、受精卵が割れていく時に、プロテオグリカンがとても重要な役割していることが明らかになってきています。実験2では、受精卵が分裂する時に、プロテオグリカンが受精卵のどこに存在するのか?を調べてもらおうと思っています。

高校で生物をとっていた人は習ったと思いますが、細胞分裂は幾つかの過程(間期ー前期ー前中期ー中期ー後期ー終期・細胞質分裂)を経て起こります。観察している細胞が、細胞分裂のどの段階にあるのかは、チューブリンと呼ばれるタンパク質の状態を観察することで推定できます。

細胞分裂のどの時期に、プロテオグリカンがどこに存在するのか?

プロテオグリカンを緑色で、チューブリンを赤色で染色し、顕微鏡を覗いてそれぞれの分子の局在を観察することで、上記の問題を調べてみてください!

実験3)リアルタイムPCR 法によって、目的遺伝子の発現レベルを測定する

リアルタイムPCR 法は、目的の遺伝子の発現を約1時間で調べることができる優れた方法です。

実験1のプレゼンの課題の一つとして、ノーザンブロッティング法を調べてもらいますが、ノーザンブロッティング法は遺伝子の発現レベルを調べる古典的な方法です。この方法の所要時間は2〜3日を要し、操作法も煩雑で美しい結果を得るためには熟練が必要でした。現在では、リアルタイムPCR 法が、その簡便さと精度の高さから、遺伝子の発現レベルを調べる方法としてノーザンブロッティング法に取って代わっています。

さて、実験3の内容です。

脳を構成する代表的な細胞として、神経細胞とグリア細胞があります。これらの細胞がいつ生まれるかというと、神経細胞はお母さんのお腹の中にいる間、マウスでは胎生 12〜16 日の間に生み出されます。神経細胞は、神経幹細胞が増殖・分化することで生み出されます。このような現象を経て、新しく神経細胞が生み出されることを神経新生(ニューロジェネシス)といいます。一方、グリア細胞は誕生の少し前から生後にかけて生み出されます。神経幹細胞が分化し、新たなグリア細胞が生み出されることをグリア新生(グリオジェネシス)と呼んでいます。

実験3では、マウスの発生過程で、神経新生とグリア新生が起きている時期をリアルタイムPCR 法を用いて調べてもらおうと思っています。

どうやって調べるかというと、神経細胞あるいはグリア細胞で高いレベルで発現する遺伝子を利用します。今回の実験では、神経細胞で特異的に発現する βIII-チューブリン遺伝子とグリア細胞で高いレベルで発現する GFAP 遺伝子を利用します。神経細胞が大量に生み出される時期では βIII-チューブリン遺伝子の発現レベルが、グリア細胞が生み出される時期には GFAP 遺伝子の発現レベルが上昇すると考えられます。したがって、発生段階を追って  βIII-チューブリン遺伝子と GFAP 遺伝子の発現レベルをリアルタイムPCR で調べることで、神経新生とグリア新生が起きている時期を推定することができます。

 

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