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Glycoscience
2016-06-27

<まだわかっていないこと>を

永田和宏先生をご存知でしょうか。
日本の著名な研究者の一人であるとともに歌人でもある大変に有名な先生です。
「NHK の短歌」の選者、宮中の歌会始詠進歌選者、角川短歌賞選考委員でいらっしゃるので、サイエンスの分野以外でも大変に有名な先生です。
永田先生が「生化学」という雑誌で大学教育の本質について語っておられるので、ここで取り上げてみることにしました。

記事 (PDF) 生化学第88巻第3号 p. 281 (2016)

高校までのいわゆる初等中等教育と、大学における教育とは大きく異なります。
高校までの教育では、答えは必ず一つあり、一つ以上はないというのが前提です。問題があれば、そこには〈必ず〉答えが一つあり、二つ以上はないという前提のもとに、安心して解答に辿り着く訓練を続けてきた人が多いと思います。あるいは、問題と答えを対応させて、とにかく暗記するという勉強法をとってきた人も多いでしょう。
社会に出ていけば、誰も正解を知らない問題の方が圧倒的に多く、そういった問題に対応できる能力がなければ、必要とされる人材にはなれません。誰かが、問題を与え、解き方と答えを教えてくれるわけではないのです。自分の仕事に対応する「青本」が存在し、覚えるべき部分が赤字でハイライトされているわけではありませんし、誰も勉強の仕方を懇切丁寧に説明なんかしてくれません。仕事をしながら、自分なりに問題点を見つけて、自分なりに解決していく。解決できたとしても、それが正解かどうかなんて、誰にもわかりませんし、いちいち誰かが褒めてくれるわけではありません。誰も何も言ってはくれませんが、評価はされています。次の仕事が任せられれば、きっちりと仕事ができたと評価された証拠です。ダメな場合は、ダメだということを直接言ってもらえることは少ないでしょうし、何がダメであるのか、どのように改善すればいいのかについては誰も説明してくれません。周りが困っていることを察して、そっと手を差し伸べてくれるなんてことは極めて稀です。自分で問題点に気づき、自らアクションを起こさなければ、いつまでたっても評価は上がらないということになります。大学を卒業したら、そういう世界に飛び込んでいかないといけないのです。
ですので、大学では社会に出るまでの猶予期間として、自ら問を発し、答えのない問題に対する取り組み方を学んでいってほしいと思います。私立薬科大学の特性上、国家試験対策はせざるを得ません。国試に出やすい問題を解いて正答を導き出す訓練をしていただく必要があります。しかし、これはあくまで「国家試験対策」であり、大学の勉強のすべてではないと思います。
大学で本当に学ぶべきことは何であるのか?高校までの教育と大学の教育はどう違うのかを考えてみませんか?

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