論文発表:ヘパラン硫酸の合成を調節する分子が新しいメカニズムで細胞増殖を制御していた
Exostosin-like 2 regulates FGF2 signaling by controlling the endocytosis of FGF2.
Biocim. Biophys. Acta (2018) 1862, 791-799, 2018
doi:10.1016/j.bbagen.2018.01.002
細胞表面に存在するヘパラン硫酸と呼ばれる糖鎖は、FGF2 などの成長因子の情報伝達に重要な役割をしています。したがって、ヘパラン硫酸の合成異常は FGF2 シグナルの破綻を招くと考えられます。こう考えてくると、ヘパラン硫酸の合成に関わる分子が FGF2 シグナルを調節するのではないかという発想が生まれてくると思います。
ヘパラン硫酸の合成には、5 種類のメンバーからなる EXT ファミリーが密接に関わっています。5 種類とは、EXT1, EXT2, EXT-like 1 (EXTL1), EXTL2, EXTL3 です。EXT1, EXT2, EXTL3 はヘパラン硫酸の生合成酵素として働いています。今回の論文の主役は EXTL2 なのですが、この分子はちょっと変わっていて、生合成酵素としてではなく、ヘパラン硫酸が作られ過ぎないように、合成を負に制御する働きを持っています。なお、EXTL1 がヘパラン硫酸の合成にどう関わっているのかについてはわかっていません。
さて、マウスの繊維芽細胞株で、EXT ファミリーの発現レベルを実験的に減らしてみました。生合成酵素として働く EXT1, EXT2, EXTL3 の発現低下によりヘパラン硫酸の合成は減少し、予想通り、FGF2 シグナルは減弱しました。
EXTL2 の場合は、発現レベルの低下によりヘパラン硫酸の合成が上がります。予想では FGF2 シグナルが増強されるはずですが、奇妙なことに減弱していました。
なぜ、ヘパラン硫酸の増加で FGF2 シグナルが減弱されるのか?これについて調べた結果、EXTL2 の発現低下により増加したヘパラン硫酸によって FGF2 の取り込みが促進していることがわかりました。
EXTL2 の発現が低下した時につくられるヘパラン硫酸も FGF2 と結合し、おそらくシグナルを伝達していると考えていますが、このヘパラン硫酸に結合した FGF2 はシグナルを伝達し始めてすぐに細胞内に取り込まれてしまいます。EXTL2 の発現が正常レベルの時と比べて、取り込みが早く起こるのはなぜか?という疑問が湧き上がってきますが、この点については明らかになっていません。
皮膚の損傷治癒やカイニン酸によって誘発される神経新生などで、FGF2 に依存した細胞増殖が大切な役割を果たすことが報告されています。このような局面で、EXTL2 の機能的な重要性を示すことも重要であると考えています。
以下は、この研究に関わった学生たちです。
大学院生: 田中慎也くん、岡田めぐみさん