生体を構成する細胞の表面あるいは細胞外マトリクスには糖鎖が豊富に存在します。糖鎖の中でもグリコサミノグリカン Glycosaminoglycan (GAG) と呼ばれる硫酸化糖鎖は種々の細胞内シグナル伝達に関わり、個体あるいは細胞の恒常性を維持しています。これらのシグナル伝達を的確に調節するために GAG の合成や分解は厳密に制御されており、その異常は細胞の形質を変化させ、種々の疾患の病態に関わると考えられています。私たちは糖鎖による細胞機能制御とその破綻による疾患との関りを理解することを目指して研究を進めています。
“甘くない”糖鎖にフォーカスした疾患発症機構の解明
糖質の中でもグリコサミノグリカン (GAG) 鎖はデンプンなどの所謂”甘い糖鎖”とは異なり、シグナル分子としての働きをもっています。GAG 鎖のもつ情報が受容体を介して細胞内に入力され細胞機能を制御しているのです。GAG 鎖により制御される現象は多岐にわたり、神経細胞・間葉系幹細胞・骨髄系幹細胞・筋芽細胞・がん細胞の増殖や分化が GAG 鎖によって調節されることを見出しています(図1)。このような現象は“老化”にも密接に関わっており、私たちの研究成果は日本国民の健康寿命を延ばすために役立つと考えています。また、私たちは現象を見つけるだけにとどまらず、遺伝子レベルで GAG 鎖の構造や量を操作した細胞や動物を作出し、その表現型解析を行うことで、糖鎖構造を基盤としたシグナル伝達の仕組みと機能的重要性の解明に取り組んでいます。さらに、GAG 鎖によるシグナル伝達異常と疾患との関連を理解するために、細胞レベルで明らかにした現象を個体レベルで再現し、逆に GAG 生合成酵素遺伝子を欠損したマウスを用いて明らかになった知見を組織あるいは細胞レベルで再構築し、分子レベルで疾患の発症機構に迫るといった“分子―細胞―組織―個体を統合的に見る戦略”で糖鎖にフォーカスした疾患発症機構の解明を目指しています(図2)。
共同研究の申し込みも歓迎いたします
北川研究室は20年以上もの間GAG 鎖と向き合い、GAG 鎖の分析技術やGAG 合成酵素活性の測定法を確立してきました。また、長年の基礎研究を通してGAG 鎖の構造―機能相関及び生合成機構に関する有益な情報を蓄積しています。確かな分析技術には定評があり、複数の研究機関から依頼を受け、様々な病気の患者様から採取された検体のGAG 鎖を分析しています。このような共同研究により、GAG 鎖の合成や分解の異常が病気の原因であることが明らかになり、GAG 鎖が創薬ターゲットとして有望であるという認識が広まっていくと考えています。北川研オリジナルな実験技術や専門性の高い情報を活かし、GAG 鎖の生合成あるいは分解酵素遺伝子の発現を変化させる低分子化合物を“薬のタネ”として世に出したいと願っています。私たちの創薬ビジョンを共有してくださる研究機関や企業からの共同研究の申し込みをお待ちしております。GAG 鎖が原因かもしれないと推測される病気の検体の分析依頼についてもご相談ください。